夜明けを 謳う



 当たり前だが、真冬の夜明けの空気は、冷たい。
 いや、冷たい、なんてもんじゃない。
 ともかく、表現のしようがないくらい、凍てつく。
 そんな極寒の空の下。
 まだ朝日も顔を出さない時間に、寄り添うように人影がふたつ。
 白くなる息を吐き出して、何故か屋根の上から街を見下ろしていた。
 もちろん考えなしに登っているわけではないらしく、お互いに完全に防寒装備で身を包んでいるが、

「やっぱり寒いねぇ」
「当たり前だ、バカ」

 ぽつりと呟いたラディの言葉を、即座にバッサリ切ったのはテッドだ。
 相当眠そうで、半目になりながらもツッコミは忘れない。
 はっきり覚醒しているラディはこっそり感心してしまった。
 そんなに眠いんだったら、別に付き合わなくてもいいのになぁと思いつつ、意地でも自分に付き合うつもりでいる親友に、少し嬉しいのも事実で。
 日の出を見よう、と言い出したのはどっちだったか。
 多分ラディからだったと思う。
 特に理由はなかった。
 テッドが泊まりに来て話し込んでいたら、うっかり夜明けの時間に近くなってしまったので、どうせだから二人で日の出でも見ようか、と。
 そんな適当な流れだ。
 軽く提案したものに、ノリの良いテッドがひとつ返事で頷き、いざ日の出を迎えんとマクドール家の屋根に登り。
 そろそろ日の出時間だよね、と見当をつけたはいいものの、そこからが長かった。
 ひたすら待つだけの時間は色々辛い。
 何しろ徹夜なのだ。
 一睡もしていないところに、何もすることのない待ち時間が来れば、それはもちろん、

「あー・・・テッド〜?」
「・・・・・・」

 寝るな、という方が無理な話だった。
 ちなみにラディが覚醒していられるのは、割と徹夜に慣れていることと、外のあまりの寒さに眠気が吹っ飛んだというのがある。
 こんな寒いとこでよく眠れるなぁとまたしても感心したラディの右側は暖かい。
 眠りに落ちてしまったテッドが、寄り添って座るラディの方へ凭れかかってきたからなのだが。
 人間カイロにしてるのは、どっちかなぁ、などと呑気に思いながら遠くの空を見たラディの目に、微かに顔を覗かせた太陽の光が映る。
 屋根に登った時にはまだ薄暗かった空が、気付けば薄紫へと色を変えていた。
 朝日。
 昇り始めれば、あとは驚くほど早く過ぎていく。

「テッドテッド〜。日の出終わっちゃうよ?」
「・・・・・・」

 反応がない。
 本格的に寝入ってしまったらしい。
 本当に、よくこんな寒空の下で熟睡できるものだ。旅暮らしが長く野宿など当たり前だったとは聞いたことはあるが、外で熟睡なんかしていいのか? と少しばかり疑問に思ってしまう。
 良く言えば、図太い。
 悪く言えば、無用心。

「テッドと日の出見たかったのにな」

 結局、一人で日の出を眺めている。
 傍らの温もりを感じながら、ラディは苦笑して明るくなっていく空を見上げた。
 日の出を二人で見るなんてことは、まだいくらでも機会はあるだろう。



 見慣れた街並みが、滅多に見ない朝焼け色に染まる。

 傍らには、もうだいぶ馴染んだ親友の気配。
 そこにいることが当たり前になってきた少年は、隣で静かな寝息を立てている。
 こいつ完全に寝てるんだ。
 何だか可笑しくなったラディは、昇る朝日を見つめながら小さく笑った。



 また今日が、新しくはじまる。








そんなある夜から朝にかけての日常。
こーゆー感じで終始まったりしてるといい。
2011.1.15


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